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東京地方裁判所 昭和52年(刑わ)4653号 判決 1978年2月21日

主文

被告人を罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  酒気を帯び呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、昭和四五年四月一一日午後八時ころ、東京都板橋区板橋二丁目一九番地先道路において、普通貨物自動車を運転し

第二  前記日時ころ、業務として前記自動車を運転し、前記道路を、中仙道方面から横浜方面に向かい時速約四五キロメートルで進行中、前方左右を注視し、進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、前方を十分に注視しないで漫然前記速度で進行した過失により、自車を前方に右折のため停止していた山崎勝造(当時三一年)運転の普通乗用自動車に衝突させ、よつて同人に加療約一四日間を要するむち打ち症等の、右山崎運転車両の同乗者伊元富雄(当時四九年)に加療約三日間を要するむち打ち症の各傷害を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

罰条

判示第一の所為につき

昭和四五年法律八六号(道路交通法の一部を改正する法律)附則六号により同法による改正前の道路交通法一一七条の二第一号、六五条、昭和四五年政令二二七号(道路交通法施行令の一部を改正する政令)附則五号により同令による改正前の道路交通法施行令二六条の二(罰金刑選択)

判示第二の判示山崎外一名に対する各業務上過失傷害の所為につき

各刑法二一一条前段、昭和四七年法律六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号、刑法六条、一〇条

科刑上一罪の処理

判示第二につき刑法五四条一項前段、一〇条(犯情の重いと認める判示山崎に対する罪の刑で処断、罰金刑選択)

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 刑法一八条

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、起訴状謄本不送達による公訴棄却(刑訴法二七一条二項、三三九条一項一号)の場合には同法二五四条一項の適用はなく、公訴時効は停止されないとし、又、少くとも、逃亡していない被告人に対して捜査不行届により起訴状謄本が送達されず同法三三九条一項一号の裁判がなされた場合に同法二五四条一項を適用して時効の停止を認めるのは憲法三一条に違反するとして、本件各公訴事実につき公訴時効完成を理由に免訴の判決を求める旨主張する。

よつて考えるに、同法二五四条一項による公訴時効の停止は、昭和二八年法律第一七二号による法律改正(同条項の但書削除及び同法三三九条一項一号追加)の経緯・趣旨等に鑑み、現行法上、起訴状謄本不送達による公訴棄却(同法二七一条二項、三三九条一項一号)の場合にも適用されることは明らかである。又、起訴状謄本不送達の場合に、同法二五四条一項によりその事由の如何を問わず一律に公訴時効の停止を肯認することが直ちに憲法三一条違反を来すものでもない。

関係資料によれば、本件公訴は昭和五二年一一月三〇日提起されたが、これより以前被告人は本件と同一事件で昭和四五年五月一九日当裁判所に起訴され、昭和五二年九月八日、公訴提起後二ケ月以内に被告人へ有効な起訴状謄本の送達がなかつたとして同法二七一条二項、三三九条一項一号により公訴棄却の決定がなされた(同年同月一三日確定)ことが認められる。

右認定事実によれば、同法二五四条一項の規定にてらし、昭和四五年五月一九日から昭和五二年九月一三日迄公訴時効の進行が停止していたと解され、したがつて、未だ本件についての公訴時効が完成していないことは明らかであり、これと異なる弁護人の前記主張は採用しえない。

(量刑事情)

被告人は、酒に酔つて自動車を運転し人身事故を惹起したもので、被害者に落度等存せず被告人の一方的過失であること、前に道交法違反の罰金前科があることも考えれば、その刑事責任は軽視しえず、厳しく非難されなければならない。

しかし他方、本件事故態様が追突ということもあり幸いにも被害程度が比較的軽微ですみ、被害者との間に示談も成立し被害感情も悪くはないこと、起訴状謄本送達の過程において被告人の側にも手落ちのあつたことが窺われるものの、本件犯行後既に七年一〇ケ月余の年月を経、その間被告人の生活状況も安定してきており、本件後運転行為から離れ、その後同種その他の犯罪歴等存しないこと等の事情も存するので、これらを総合考慮して、主文掲記の刑が相当と思料する。

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